"バリアブルフィルターND2-64深堀りレポート"伊達淳一先生
■KANI ND2-64 Variable 大口径レンズを絞り開放で撮影したいけど、日中屋外では明るすぎて最も高速なシャッタースピードに設定しても露出オーバーになってしまう、もしくは、水の流れを白糸のように表現したり、流し撮りで背景を単純化したいのに、最小絞りまで絞ってもスローシャッターになってくれない、といったときに効果を発揮するアイテムが、色味に影響を与えず光量を落としてくれる(減光する)「NDフィルター」です。いわばレンズのサングラスのようなものです。
Kaniの場合、円形フィルターはND4/8/16/32/64/400/1000/65000の8タイプ、角型フィルターはND4/8/16/32/64/128/400/1000/10000/32000の10タイプがラインナップされていますが、シーンの明るさや表現意図によって、どの濃度のNDフィルターが最適化は異なります。といって、すべての濃度のNDフィルターを揃え、携行するのも現実的ではありません。
そこで、お薦めなのが、減光度合い濃度を無段階に変えられるVariable(可変)NDフィルターで、Kaniには、「ND2-64 Variable」と「ND2-400 Variable」の2タイプがラインナップされています。
Variable NDフィルターは、2枚の偏光膜の角度を変えることで、減光度合いを可変しています。もし、PLフィルターを2枚持っているのであれば、PLフィルターの対物側同士を重ね合わせ、片方のフィルターを回転させてみましょう。すると、フィルターの角度によって濃度が濃くなったり薄くなったりします。Variable NDフィルターもこれとまったく同じ原理で、フィルターの濃度を変えています。ただ、フィルターの濃度が濃くなると、色味が変わってしまったり、濃度ムラが目立ちやすくなります。特に、超広角~広角域では、減光効果を高めれば高めるほど偏光による濃度ムラが目立つので、青空を含むシーンを超広角で撮影する場合には、Variable NDではなく、通常のNDフィルターを使用しましょう。
また、標準域以降では、フィルターが落下しない程度に装着を緩め、フィルターを根元から回転させると、PLフィルターと同様、偏光効果が変わるので、青空の濃度ムラが目立ちにくくなるポジションを探して撮影するのがポイントです。
この3枚の写真は、どれも焦点距離15mmのレンズ(フルサイズ)にND2-64 Variableを装着し、最大濃度で撮影しています。フィルターの装着を少し緩めることで、青空の濃度ムラの位置は少し変化しますが、これだけ超広角になるとフィルター装着を緩めて回転したり、減光効果を弱めても(濃度を薄くしても)、濃度ムラは回避できません。少なくとも青空など偏光効果がハッキリ出るシーンでは、超広角~広角レンズにVariable NDフィルターを付けて撮影すると不自然な濃度ムラが生じるので注意しましょう。
ちなみに、ND2-64 VariableとND2-400 Variableとでは、ND2-64 Variableのほうが色味の変化や(同じ画角でも)濃度ムラが少ないので写真(静止画)向きといえるでしょう。一方、動画撮影で自然な動感を得るには、シャッタースピードを1/60~1/250秒程度に設定する必要があり、明るい屋外で絞りを開けて撮影するには、減光度合いを大きく変えられるND2-400 Variableの使用が効果的です。
<検証> KANI ND2-64 Variableは、ND2からND64まで無段階のND濃度を調節できるのが特徴です。ND濃度を変えた場合、フィルターの色カブリがどの程度出るかを、セコニックの分光方式カラーメーター スペクトロマスターC-800でチェックしてみました。セコニックC-800は、自然光を始め、ストロボやLED、蛍光灯、白熱電球などの色温度を測定し、適切なカラーバランス(ホワイトバランス)で撮影するためのフィルター数値やホワイトバランス設定値を示したり、演色評価数による光源の色再現性を確認できるカラーメーターです。工業用の検査機器ではないので、あくまで簡易的な測定に過ぎませんが、それでもCPLフィルターやNDフィルターの色味や透過率をある程度調べられます。 安定した標準光源は用意できないので、晴天屋外の太陽光を標準光源として測定。ND2-64 Variableの主なND濃度で、分光特性(スペクトル)や色温度、照度(Lux)を比較してみました。C-800の受光部は乳白色の半円球なので、側面からの光を拾わないよう、受光部を黒い円筒で覆い、円筒の上にVariable NDフィルターを設置して、スペクトルや照度の変化を測定しています。
フィルターを装着せずに太陽光の特性を測定しました。色温度(CCT)は5567K。夏のデーライトとして理想的な色温度です。照度は102000lx。Ra(平均演色評価数)というのは、自然光照明で再現される色をどれだけ再現できているかを示す指標で、Ra100がもっとも理想的な自然光照明ということです。Ra99.4なので、ほぼ理想的な光源ということがいえます。ここで測定した太陽光の色温度が5567Kということで、WB(ホワイトバランス)補正の基準色温度を5500Kに設定しました。当然、WB補正画面では補正値はほぼ0を示しています。
ND2-64 Variableのもっとも濃度が薄いND2に設定して測定。照度は102000lxから42000lxに落ちているので、実際はND2.4の濃度ということになります。色温度は5567Kから5093Kと下がっていて、アンバー・グリーンの軽微な色カブリがあるようです。フィルターなしと同じホワイトバランス(カラーバランス)で撮影するためには、ブルー方向に+3、マゼンタ方向に+1程度のWB微調整が必要です。
ND2-64 VariableのND2(実際にはND2.4相当)の照度が42000lxなので、その半分の照度(209000lx)になるまでフィルターの前枠を回転。ND4.8相当までNDが濃くなっても、色温度は5063Kと、ND2.4のときとほとんど色調は変化していません。
さらに、フィルター前枠を回転して、ほぼ半分の照度となる10600lxまで下げました。ND9.6相当の濃度で、色温度は5039Kという測定結果です。ND2からND8(実際にはND2.4~ND9.6)まで、濃度が変わってもほとんど色調は変化していません。
さらにさらに、フィルター前枠を回して照度はほぼ半分となる5510lxまで下げました。フィルターなしの照度から換算すると、ND18.5相当の濃度になります。色温度は5017Kで、ND2.4の5063Kに比べるとわずかにアンバーにシフトしていますが、この程度の違いは実写ではほとんど感じないはずです。非常に優秀なVariable NDフィルターといえるでしょう。
ND2-64 Variableの前枠を最大濃度となる位置まで回して測定してみました。照度は1780lxなので、フィルターなしの照度と比較するとND57.3相当の濃度です。色温度は4923Kとアンバーが強くなり、WB微調整でもブルー方向の補正を1段強めにしたほうがよさそうですが、Variable NDフィルターの最大濃度での色調変化としてはかなり少なめです。ホワイトバランス[オート]で撮影した場合、色調の変化はほぼ感じないでしょう。
ND2-64 Variableの濃度変化で色調が変化するかを実写でチェック
次に、実際の撮影でも、NDフィルターの濃度を変えても色調が変化しないかを確かめてみましょう。キヤノンEOS R5+RF24-105mm F4L IS USMを35mmに設定し、ホワイトバランスは[オート(雰囲気優先)]で撮影しています。
1)ノーフィルター
ノーフィルターでの撮影です。撮影日時は8月19日15時半ごろなので、少し色温度が下がってくる時間帯ですが、まだまだ太陽の高度が高いので、それほどアンバーは強く感じません。
2)VND2-64_ND2
ND2-64 Variableをもっとも減光効果が少ないND2に設定して撮影したカットです。シャッタースピードは1/1000秒から1/400秒と遅くなっているので、セコニックC-800での測定と同様、ND2よりも少し濃度が高いようです。また、画面全体にアンバーが浮き、空の青が多少濁った感じになりました。
2)VND2-64_ND2(WB補正B2M1)
同時記録したRAWを現像し直して、フィルターなしと同じような色調に補正を試みました。ND2-64 Variable装着時には、WB微調整をブルー方向に+2、マゼンタ方向に+1にすると、青空のくすみが取れてクリアな色味に仕上がります。
3)VND2-64_ND4
シャッタースピードが1/400秒から1/200秒になる位置までフィルター前枠を回して撮影。青空の明るさが少し落ち、ビルの反射が薄くなりましたが、全体の色調はND2とほとんど同じです。
4)VND2-64_ND8
シャッタースピードが1/200秒から1/100秒になる位置までフィルター前枠を回して撮影。青空の明るさが落ちている箇所が多少移動しましたが、全体の色調はND2やND4とほとんど同じです。
5)VND2-64_ND64(A)
5)VND2-64_ND64(B)
5)VND2-64_ND64(C)
この3枚はどれも最大濃度のND64に設定して撮影した写真です。違いはフィルターの装着角度。レンズに装着したフィルターを外す方向に少しずつ回していくと、PLフィルターと同様、偏光でカットされる方向が変わっていき、空の明るさが落ちる箇所が少しずつ変わります。焦点距離35mmではそれほど目立った濃度ムラは生じにくいですが、それでもフィルターの後枠を緩め、回していくと空が暗く落ちる位置が変わるので、できるだけ空の明るさが均一に落ちる位置を探して撮影するのがポイントです。
<活用例> 個人的に、Variable NDフィルターがもっとも重宝するのが、空港周辺でのヒコーキの流し撮りです。夕暮れから薄暮、夜の時間帯であれば、NDフィルターを使わなくてもヒコーキの流し撮りに適したシャッタースピードに設定できますが、日中にヒコーキを流し撮りしようとすると、シャッタースピードを4段分落とせるND16が必要になります。ただ、流し撮りだけするのであればND16を装着しっぱなしで構わないのですが、離陸に向けて滑走中は流し撮り、離陸してからは高速シャッターで風景と機体をピタッと止めたいときもあり、1台のカメラで両方を狙うのは困難です。昼間から夕方にかけて光量がだんだん減っていき、ND16では光量が落ちすぎる、といって、NDフィルターなしでは十分にシャッタースピードを落とせない、という中途半端な時間帯もあります。 こんなとき、Variable NDフィルターであれば、フィルター前枠をクルッと回すだけで、ND16からND2、ND32からND2へとワンタッチでND濃度を変えられます。後はシャッタースピードを変えれば、流し撮りから動きをピタッと止めた撮影にも十分対応できます。また、光量が変わっても、Variable NDフィルターでND濃度を微調整しながら撮影すれば、流し撮りに最適なシャッタースピードに設定したまま、小絞りボケの影響が少ない絞り値で撮影することが可能です。
京浜島緑道公園から横切る警戒船を1/30秒で流し撮り。フィルターなしで撮影した場合には、最小絞りまで絞り込んでも日中は1/30秒までシャッタースピードを下げられない可能性が高いが、Variable NDフィルターを使えば、すばやく絞りを4~5段分は開けられるので、小絞りボケの少ない絞り値で流し撮りできる。
同じく京浜島緑道公園からの警戒船を1/15秒まで下げて流し撮り。1/30秒で流し撮りしたときよりも減光効果を強くしているので、1/15秒でもF11までしか絞られていない。
離陸するヒコーキを1/30秒で流し撮り。絞りはF9だ。発売されたばかりのキヤノンEOS R5で撮影しているが、ND2-64 Variableのアンバー味を抑えるため、ホワイトバランスは[太陽光]、WB微調整でブルーを+6、マゼンタを+1補正して撮影している。
高速シャッターで動きを止めると、手前のフェンスやターミナルビルがうるさくなってしまうが、こうして1/30秒で流し撮りすれば、主役のヒコーキが浮き立って見える。絞り値はF8なので、小絞りボケの影響はなしだ。
羽田空港のB滑走路からの離陸機で流し撮りの練習していると、A滑走路に進入する着陸機が到着。高速シャッターで動きを止めるため、ND2-64 Variableをもっとも減光効果の少ないND2まで回し、シャッタースピードを1/1250秒に上げて撮影。フィルターを外さずにND32前後からND2まで光量を増やせるのは便利だ。
B滑走路に着陸する直前のフォルムをほぼ真後ろから狙う。PLフィルターと同様、偏光効果があるので、こうした霞みがちな遠景も多少はクッキリ写る効果が期待できる。できれば、あらかじめフィルター装着を緩め、偏光効果で空の明るさがもっとも落ちるポジションで撮影したい。
逆光気味のポートレート撮影時に、フラッシュを発光させて背景との光量差を補う「デーライトシンクロ」というテクニックがありますが、シャッタースピードを1/250秒~1/125秒以下にしないとフラッシュが同調せず、画面の一部にフラッシュの光が当たりません。しかし、日中屋外でシャッタースピードを1/250秒に設定した場合、感度をISO100まで落としても絞りはF11前後になってしまいます。高速シャッターでもフラッシュが同調する「ハイスピードシンクロ」という機能を備えているフラッシュもありますが、発光量を抑えて連続発光させることで、閃光時間(フラッシュが光っている時間)を長くしています。そのため、絞りを開けて高速シャッターでフラッシュ同調できるものの、パワーを絞って連続発光させているので、撮影距離がかなり短くないと露出不足になってしまいがちです。ハイスピードシンクロを何十回も繰り返すと、フラッシュにも負荷がかかり、寿命を縮める原因にもなりかねません。
こうしたデーライトシンクロ撮影にもVariable NDフィルターは有効です。まず、絞り優先オートで撮影したい絞り値に設定します。使用するフラッシュの出力(ガイドナンバー)にも依りますが、クリップオンフラッシュならISO200前後の感度が目安です。そして、シャッターボタン半押しで内蔵露出計をオンにし、シャッタースピードがフラッシュ同調速度(一般的には1/200秒前後)以下になるまで、Variable NDフィルターの前枠を回してND濃度を調節します。これでハイスピードシンクロを使わずに、絞りを開けてデーライトシンクロ撮影が行えます。Variable NDフィルターは、連続的にND濃度を可変できるので、背景や被写体に当たる光の量に応じて、フラッシュ同調が可能なシャッタースピードまで柔軟に光量を微調整できるのが強みです。ハイスピードシンクロよりもフラッシュ発光の効率がいいので、チャージタイムも短縮でき、フラッシュ本体に対して負荷をかけ過ぎずに済むのも特徴です。
【デーライトシンクロ撮影時のVariable NDフィルターの使い方手順動画】
可変NDフィルターは万能フィルターではありません。瞬時にND効果を調整することが最優先に求められるポートレート、滝、花火、標準~望遠での風景には適していますが、広角、光量の安定しないシーンでの撮影には向いていません。そのような点を踏まえて、御購入を御検討頂くようお願い致します。
●NDバリアブルフィルターラインナップ
https://www.loca.design/circle-filter-variable-nd